Vol.67 はみ出し者の地平線  著:明媚 朋郎

今朝、バイクにのって出勤しようと飛び出し信号待ちでニュートラルにして待っていたら、エンジンがグングン回転してアクセルフカしていないのにフルスロットルになった。「アレ?」なんて思いながら、信号が青になったので一速に入れた途端ウイリーして急発進(そりゃあそうだよな・・・・)!危うく前のパッカー車に突っ込むところだった。マジで危なかったよ。という事で昼休憩にバイクトラブルになったらいつも行っている新井薬師のバイク屋に行った。「これはワイヤー錆びてるから交換だね!代車夕方に用意するから夕方来てよ」って話になってバイクをあずけて、歩いて東中野の事務所に帰ったのですが・・・・・落合~東中野~中野、この辺は、物凄く思い出が詰まっている場所だとい うことを思い出した。何年か前からこの辺には寄りつかなくなっていたのだけど、やっぱり俺にとっては凄く落ち着く街だと再確認した。懐かしい青空。憶えのある匂い。優しい日差し。なんだかこみあげるものがあったんだ。俺さ、喉やっちゃってさ・・・・レコーディング中なのに(笑)。連日のレコーディング、レコーディング明けてライブからのライブと喉を酷使はしていたんだけど、いつもの事だし、発声もメンテナンスもしていたから大丈夫だと思っていたら駄目だった。同時に喉風邪をこじらせてしまってね、寝付く時に酷い咳がとめどなく出るヤツ。それが決定打だったと思う。病院行ったらドクターストップですよ、まあ予定は止まらないのですが(笑)ドクターも常人の定義でのドクターストッ プを下したのだろうから、俺には当てはまらないんだろうけどさ、だって俺スーパーマンだから。と強がりはまだ言える状態。


全ての出来事は必然だととらえる。トラブルでも良い事でも女を寝とられたとしても、財布を落としても。全ての出来事は必然だととらえる。こうなる予定だったのだ。凹みもしないんだけどさ、この状況で最善を尽くして、淡々と重ねて行くだけだから、とはいえ、歌いたいように歌えないもどかしさはついて回るもんで「いやいや、タイマンだったら余裕で勝ってたよ」「手がいつもの調子だったら打ててた」とか、言うのはさ、なんかカッコワリーじゃん。だからなんでこうなったのか色々考えて次につなげようとしてたら今朝のバイクのトラブルで、もう行く事のない予定だった新井薬師近辺をゆっくりと歩く事になった必然以外の何物でもない今日歩いた道は俺がTHE AVOIDEDでファースト7インチ・シングルをレコーディングする時に西荻目がけてチャリでかっとんだ道。正にその道。ちょうどそんな時刻でそんな天気。何度かレコーディングはしていたんだけどデモとかコンピじゃなく単独作品としては、はじめてのレコーディングだった。不安と期待に縁取られた瞬間の連続。ペダル踏み込み西荻ミスティーを目指した16年前。高鳴る胸を押さえきれなくてチャリこぎながら大声で歌っていた。そんな道。なんか当時の俺とすれ違った気がしたんだ。レコーディングが出来る事、単独作品が出せる事、当時からすれば色んな事を経験して抱えてきた。今の状況は当時からでは考えられないだろう。だけど何も変わっていないんだなって、バンドの状況やとりまきが物凄いスピードでどれだけ変わろうが俺がパンクロックに向き合って歌うってことに関しては何一つ変わらない。変わらないんだよって。歌えるだけラッキーさ。マイクの数以上にボーカルは居る。マイクを奪いに俺は来たんだ。ベストを尽くして、今の自分を刻み込むだけさ。あの頃、16年前のファーストシングル。LEAVE ME ALONE 邦題「俺にかまうな」。コード進行はアニマルズのそれから拝借した。歌い方は影響モロだったスティーブマリオット。それよりも正直に言えば心酔していたスクリュードライヴァー初期に完全に狙いを定めていた。誰もやってない事をやりたかった。異端で居たかった。足並みそろえるなんて真っ平だった。

スタプレストも誰も履いていない様なオリジナルを探した。研究に研究を重ねてポロシャツ1つ、腕を通すのには慎重になった。ボタンダウンはしまいに仕立てるようになった。買ってすぐに着るなんて真似は到底出来なかった。ブレイシスの太さ、材質。ドクターマーチンも拘り抜いた。

どうしても手に入らないTシャツは作った、クロンビーもプリングルも血眼になって捜した。同じ気持ちの仲間とスタジオに入ってさ、形に無いものをゼロから作っていくんだ。何よりもバンドで歌える事が嬉しすぎて嬉しすぎて、それだけで良かったんだ。そんな事を思い出した。俺よ。そこの難しい顔して大した気になってる俺クンよ。そうそうそこの木偶の坊だよ!お前はアレか?なんかオペラ歌手にでもなったつもりだったのか?うん?気にするところが違うんじゃねえのか?え?声?全然大丈夫だよ!あれか!逃げ道用意してんのか?言い訳先に並べてんのか?だらしねえなあ。なんてね。そんな風に自分を笑えたんだよ。その道を歩き終わる頃には俺は何にも気にせずに未来の事を空想してニンマリしてたよ。